CHROインタビュー
CHROインタビュー
「企業在人・成業在天」
激変する環境下でも人の成長と企業価値を高め続ける組織をつくる
日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CHRO
正木 茂
Q 日清食品グループにおける人的資本の考え方とは?
創業者の安藤百福は、2007年に社員に向けての年頭メッセージとして「企業在人・成業在天」という言葉を記しました。この言葉には、企業の本質は人である、人に対する評価がそのまま企業の評価につながる、という意味が込められています。人材を企業価値の源泉と捉える姿勢は、「人的資本」やMISSION、VISION、VALUEといった言葉が生まれる前、目先の利益が重視されていた時代から日清食品グループに根付いています。
人的資本を捉える視点として、企業の「社会的責務」と「経済性」があります。多様な社員がイキイキと働きやすい環境を整備することは社員の人権保障であり企業の「社会的責務」だと考えています。その状態を基盤として社員の人材育成や戦略的配置などの活動を通して企業のビジョンの実現と利益の獲得を目指すことが「経済性」の視点です。この2つの視点で人的資本を捉えながら社員とともに社会的インパクトの創出を目指していきます。
また、従来の人的資本投資は、一会計年度内にどれだけ効率的に儲けるかという「金額」のみで測られるものでしたが、経済環境が目まぐるしく変化する現在社会で企業の存続可能性を高めるためには、この金額軸だけでは不十分だと考えます。社員一人ひとりの能力を伸ばしながら、市場の変化に合わせた商品やサービスを提供することで「儲け続ける力を増加」していくこと。つまり「時間軸」という視点も重要です。
こうした人的資本投資によって高められていく企業価値には、3つの領域があります。一つ目は「既存ビジネス」によって獲得できる領域、二つ目は既存ビジネスの価値を「深化」させることで獲得できる領域、そして三つ目は既存ビジネスに捉われず、新規事業の「探索」によって獲得できる領域です。例えば、長年愛され続けている「カップヌードル」シリーズを確実にお客さまにお届けするのが一つ目、高たんぱく&低糖質といった付加価値を付与した「カップヌードルPRO」シリーズなどの開発であったりグローバル規模で潜在的なお客さまの獲得を目指すことが二つ目、そして「完全メシ」のような新しい領域で付加価値を提供するのが三つ目にあたります。これらを実現する人材の活躍によって、企業価値が高まるというわけです。
企業価値と人的資本投資の考え方
人事部門の役割 適所適材の実現
Q 人的資本経営を推進するなかで、人事部門の果たす役割とは?
ひとことで言えば、「人材戦略」から「人事戦略」まで、人材に関わる一連の業務を担うのが、人事部門の役割です。
人材戦略は、日清食品グループのMISSION、VISION、VALUEや経営目標を達成するために、どのような人材が必要で、どういった育成・評価を実施するかなどを明確にする「人材マネジメントポリシー」と、どのような能力を持つ人材が、どの段階で、どの程度必要になるかを分析する「人材ポートフォリオ」を中心に施策を進めています。また、その2つの観点から「人材ロードマップ」をつくっています。
その人材ロードマップをもとに、人事戦略では人材を適所適材に配置もしくは採用し、育成する計画を立案するとともに、社員の実績や能力を評価し、報酬に落とし込む仕組みをつくっています。「適所適材」という考え方は、先ほど述べた既存ビジネスの推進や深化、新規事業の探索を実現するためにも重要ですが、何より社員が日々の充実を感じながら仕事ができるようになる点に重きを置いています。それを会社の成長や社会の幸せにつなげていくことで“社員・会社・社会のHappyに!”を実現していきたいと考えます。
そうした考え方や具体的な取り組みを、日清食品グループとして初の発行となる「Human Capital Report2023」で詳しく開示しました。このレポートは、人的資本に関する情報開示の国際的ガイドライン「ISO 30414」の認証取得に合わせて作成したもので、この認定取得は食品企業として世界初となります。日清食品グループの理念浸透策や企業内大学「NISSIN ACADEMY」を中心とした人材育成、人的資本の定量的開示などが評価につながって取得できました。
Q Job型の人事制度を導入されましたが、その狙いは?
「日清流Job型」は、中長期成長戦略を実現するために必要な職務を定義し、明確にすることで、多様化する社員の就業観に対応した自律的なキャリア形成につなげていくことを目的に、まずは管理職から導入しています。加えて、報酬を市場水準と連動させることで、優秀な人材を獲得しやすくするという目的もあります。
また、この制度には「職能等級制度」と「Job制度」のハイブリッド型という特徴もあります。日清食品グループは職能等級制度を用いていますが、これだけですと人材市場との連動性がなく、例えばDX人材など特定のスキルを持った人材を外部から採用しづらいという課題がありました。これを解消するために、まずは日清食品グループが求める人材について「期待する能力・成果」を詳細に定義し直し、人材市場ではどの程度の報酬なのかを分析していきました。すると企業としての規模や業界内での位置付けを踏まえれば、ある程度の市場接続性があることが確認できました。そこで、今回の分析で定義した個人の職務能力などの要素も取り入れ、新しく「日清流Job型」を推進することになったのです。
この取り組みの一環として、従来からある「マネジメントコース」に加え専門性を発揮して特定の仕事をする「プロフェッショナルコース」を新設しました。プロフェッショナルコースは、マーケティングやIT、研究などの専門性を発揮したい人材向けで、外部からもプロフェッショナル人材を採用しやすいようにしています。また、マネジメントコースでは、次世代リーダーの早期育成を図るためのポストを新設しました。
今後は、「日清流Job型」を海外にも広げていく計画です。とくに近年、海外事業が伸び続けており、さらなる収益強化を図るためにもグローバルな市場で活躍する人材が必要です。そこで現在、どのエリアにどんなポストが必要か、今後どこのポストに空きが出るかなど、世界の現地法人と連携した「人材ニーズマップ」を作成しています。このマップをもとに、海外においても「日清流Job型」を進めていこうと考えています。
Q グループビジョン実現に向けた今後の重要施策は?
現在、日清食品グループは社員数が増加し、キャリア入社の方が50%以上になるなかで、社員の“日清食品グループのバリューに対する共感”を高めることはますます重要となってきました。そこでグループビジョンであるEARTH FOOD CREATORを実現していくための人事施策として、ありたい組織像や社員一人ひとりに求めることを「組織人材ポリシー」として掲げるとともに、組織人材ポリシーの各項目に将来目指すべき「ターゲット目標」と、必ずやり遂げる「コミットメント目標」を設定し、それぞれの状態を定期的にモニタリングし、人事施策を浸透・強化しています。
さらに、これらを実践していくための「4つの重点戦略テーマ」※を設け、テーマと連動した施策に取り組んでいます。例えば、近年の課題である海外施策を強化するために、海外勤務を志望する若手社員を対象とした「海外トレーニー」のポストを設けています。海外事業会社にて実務経験を積むことができるので、グローバル経営人材として求められる知識・スキルを体感的に認識することができます。また、営業や生産、R&Dなどに分けて、海外に赴任した場合のキャリアパスを提示し、赴任に関する不安を低減しながら海外進出の後押しをしています。加えて、2024年7月に人事プラットフォーム内にグローバルな成長を支える人材づくりを目的とした専任部署を立ち上げました。グローバル人材プールを厚くするための施策を検討しており、将来的にはグローバルタレントマネジメントにも挑戦していくつもりです。
こうした取り組みを続け、今後も、創業者の志を継承し、激変する環境下においても人の成長と企業価値を高め続ける組織をつくっていきたいと考えています。
※ 4つの重点戦略テーマ:MISSION・VISION・VALUEの浸透、自律的なキャリア形成の支援、NISSIN ACADEMYを中心とした人材育成、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン
組織人材ポリシー
区分 | KPI指標 | 目標 | 23年度 | 22-23年度進捗 | |
---|---|---|---|---|---|
社員一人ひとりに求めること | ハングリーで自律的なキャリア形成 | 社員のキャリア実現度 | ターゲット目標85% コミットメント目標70% |
78% | +3.1Pt |
日清グループのバリューへの共感 | 社員のMVV共感度 | 81% | ▲0.3Pt | ||
多様性の尊重 | 女性管理職比率 | 2025年度末10% | 8% | +2.4Pt | |
男性育児休業取得率 | 2030年度末85% | 65% | +25.4Pt | ||
ダイバーシティ効果実感度 | ターゲット目標85% コミットメント目標70% |
67% | +4.4Pt | ||
ありたい組織像 | 仕事を戯れ化し、働きがいが高い組織 | 社員の働きがい | 80% | +1.2Pt | |
仕事を通して生涯成長し、グループの持続的な成長に資する人材を輩出する組織 | 社員の成長実感度 | 72% | +3.6Pt | ||
キーポストの 後継者継承充足率 |
250% | 193% | +25.2Pt | ||
グループビジョン | EARTH FOOD CREATOR | NISSIN CREATORS AWARD表彰数 |
前年比5%増 | 総表彰数446件 特別表彰数163件 従業員投票数1,643名 |
総表彰数▲5% 特別表彰数+43% 従業員投票数+47% |
VALUE REPORT
2024
WHO日清食品グループとは?[3.66KB]
- グループ理念
- 社会価値創造History
- 日清食品グループの今
- 日清食品グループの6つの資本
- 日清食品グループのコアとなる強み
HOWどのように目指すのか?[9.79MB]
- 価値創造プロセス
- CSOメッセージ
- CFOメッセージ
-
成長戦略❶ 既存事業のキャッシュ創出力強化
- 国内即席めん事業
- 国内非即席めん事業
- 海外事業
-
成長戦略➋ EARTH FOOD CHALLENGE 2030
- 気候変動問題へのチャレンジ
- 資源の有効活用へのチャレンジ
- 成長戦略❸ 新規事業の推進
- 最適化栄養食のタッチポイント創出・拡大
- 最適化栄養食の新たな価値創造
- CHROインタビュー
- 人的資本の強化
- IRイベントレポート
- コーポレートガバナンス
- 取締役・監査役
データ [1.63MB]
- 財務サマリー
- 非財務サマリー/主な外部評価
- 即席めんの世界市場データ
- 会社情報・株式情報