COOメッセージ
COOメッセージ
「新たな食の創造」によって世界の課題を解決し、人類をもっと健康に、もっとハッピーにしていく
日清食品ホールディングス株式会社
代表取締役副社長・COO
日清食品株式会社 代表取締役社長
安藤 徳隆
主要な栄養素がバランスよく適切に調整された「最適化栄養食」が実現するHuman Well-being
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」
これは19世紀のSF作家、ジュール・ヴェルヌの名言です。その言葉の通り、人間はさまざまなものを発明し、想像を実現してきました。現在でも、空飛ぶ自動車や人間とAIの共存、火星移住など、かつてはSFの文脈のなかでしか語られていなかったことが実現に向けて動いています。そしてもう一つ、実現しそうな未来があります。それは、「好きなものを、好きなときに、好きなだけ食べられる世界」の到来です。そして、それをもたらすための一つの解が、今、日清食品が進めている「最適化栄養食」なのです。
ここ数年、世界で注目を集めているテクノロジーにフードテックがあります。その市場規模は約700兆円とも言われており、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツやアマゾン創業者のジェフ・ベゾス、グーグル創業者のセルゲイ・ブリンといった世界のエグゼクティブがそろって投資をしていることでも知られています。約1万年前と言われる農耕の開始以来、人類はさまざまな食に関する革命を起こしてきましたが、このフードテック、すなわち「食の産業テクノロジー化」も、食の在り方を変える革命であると言えるでしょう。
私は、フードテックが創る食の未来は、大きく2つの方向性があると考えています。一つは、環境への負荷を低減させる、つまりは地球の健康である「Planetary Health」を志向するものです。プラントベースフードや細胞培養といったものがこれに該当します。
そして、もう一つの方向性が「Human Well-being」です。私の祖父である安藤百福は、戦後の食糧難の時代に「食こそが人間の活動と幸福の源泉である」と考え、日清食品を創業しました。食によるHuman Well-beingとは、その創業の想いを現代の視点で新たに解釈したものでもあります。
飽食の時代と言われる現代、オーバーカロリーによる健康悪化、間違ったダイエットからくる低栄養状態、あるいはシニアのフレイル問題など、食に関する新たな問題も多岐にわたり見られるようになりました。食事は、本来楽しいものであるはずですが、制約があればその楽しさも大きく損なわれてしまいます。そこで私は、「好きなものを好きなときに好きなだけ食べられる」ことがHuman Well-beingにつながる鍵の一つであると考え、それを可能にする具体的なアプローチとして、主要な栄養素がバランスよく適切に調整された「最適化栄養食」というコンセプトにたどり着いたのです。
最適化栄養食の研究・開発を背景に誕生したのが、栄養素とおいしさの完全なバランスを追求した「完全メシ」
1食で必要な栄養素を全て摂取できるというアイディア自体は決して目新しいものではありません。これまでにも、栄養バランス食と呼ばれるものはたくさんありました。問題はどれも食事としての満足感が得られるものではなかったことです。なぜなら、栄養素のなかには苦みやエグみを持つものがあり、ただ食事の中に入れただけでは不味くて食品として成立しないからです。しかし、日清食品には即席めん事業で培ってきた高い技術力と、その応用に長けた開発者が存在していますので、栄養素をバランスよく整えるのはもちろん、栄養素独特の苦みやエグみを抑え、普段の食事と変わらないおいしさを実現することができたのです。
こうした「最適化栄養食」の研究・開発を背景に誕生したのが、「日本人の食事摂取基準」で設定されたビタミン・ミネラルなど33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求した「完全メシ」です。カップめんやカップライスだけでなく、カップスープやスムージー、さらには冷凍食品など、幅広いジャンルで展開しており、2024年8月末時点で累計の販売数は3,000万食を超えました。また、日清食品のオンラインサイトで販売している冷凍食品の「完全メシDELI」はリピート率が2024年6月末時点で、驚異的と言える59%と、高いご支持をいただけています。
この最適化栄養食のコアテクノロジーは応用の範囲が広いことも特徴の一つです。その特徴を活かし、スーパーやコンビニなどのお弁当やお惣菜を最適化栄養食とするための基材の販売をはじめ、他の食品メーカーとのコラボ商品の開発、健康経営の一環として社員食堂で「完全メシ」メニューを提供するなど、さまざまなカテゴリーでの展開が始まっています。
また、今年1月に発生した能登半島地震の被災地に向け、「完全メシ」を支援物資として提供しました。避難生活が長期化すると栄養バランスを考慮した食事の重要性が増しますので、「完全メシ」は支援物資の新しい方向性を示すものだと言えます。
少し先の話になりますが、最適化栄養食の海外展開も考えています。現在世界では20億人が肥満傾向にあると言われています。いわゆる砂糖税も20カ国を超えて導入されており、オーバーカロリーはグローバルな問題となっています。その一方、加工食品だけが供給され生鮮食品が届かないエリア、いわゆるフードデザートと呼ばれる場所も存在しています。最適化栄養食はそれらの問題をも解決できるポテンシャルを持っていると思います。将来、日清食品グループの全製品が最適化栄養食になっている、そんな未来も充分あり得ると思っています。
企業価値の向上に向けて既存事業を着実に成長させ、企業の土台をより一層盤石なものにする
無論、注力すべき経営のテーマは新規事業だけではありません。新規事業をドライブさせるためにも、既存事業を着実に成長させ、キャッシュを生み出し、企業の土台をより一層盤石なものにする必要があります。
一般的にブランドの寿命は15年から30年程度と言われますが、私は日清食品が持つ各ブランドを、誕生から100年経ってもなお皆さまに愛され続け、常に消費の最先端に立ち続けることができる存在「100年ブランド」とすることを目指しています。
日清食品には、2024年が発売66年目となる「チキンラーメン」や発売53年目となる「カップヌードル」など、たくさんのロングセラーブランドが存在します。しかしそれは反面、ブランドが高齢化しているということでもあります。また、ロングセラーブランドは次世代のロイヤルカスタマーである若い世代にとって生まれたときから日常的に接している存在であるため、「特別ではない、そこにあって当たり前なもの」になってしまいがちです。そのため100年ブランド実現のためには、ブランドを磨き続けブランドの鮮度を保ち続けること、その魅力をどう発信し、特に若い人にリーチするかがポイントと考え、ブランドコミュニケーションを中心としたマーケティングを行ってきました。
マーケティングにはTVCMなどの「空中戦」、店頭販促の「地上戦」といわれる2つの要素が知られていますが、日清食品はそこに、その2つをつなぐ役割としてSNSを活用した「サイバー戦」という概念を加えました。
ご存じの通り、日清食品はここ数年、かなり“尖った”TVCMを展開しています。なぜ、そのようなCMを流すのか、簡単に説明しましょう。まず、一 度 見た だ けでは 理 解できない“尖った”TVCM(空中戦)をご覧になった方の多くは、もう一度見ようと動画アプリや当社のサイトなどで再視聴します。そして、やっぱり変なCMということで、Xなどに「日清のCM面白い」と投稿してくれます。すると、話題が拡散する、ネットニュースとなる、さらに多くの人の目に触れる機会が増える、それを見た人がまたSNSに投稿する…というサイクルが廻り出します。これによって、SNS上での話題量が爆発的に増加し、その話題への接触頻度が飛躍的に高まり、さらに大きなサイクルが生み出される、この一連のプロセス全体が「サイバー戦」となります。その結果、数多くの人が、当社ブランドの話題に触れ、同時に脳内に占めるそのブランドに対する関心度の度合い、つまりはマインドシェアが高まることとなり、商品を買ってくださるようになります。一見、ただの悪ふざけに見えるTVCMも、実はこのような売上アップに直結するマーケティングのフレームを作る起点となっているのです。また店頭での「地上戦」でも単に商品を陳列するだけでなく、ブランドの世界観や楽しさ、面白さを伝える「エンタメ化」された売場を演出し、そこでも購買意欲を向上させるという施策を展開しています。
このような施策を続けた結果、現在、「カップヌードル」は7年連続、「日清のどん兵衛」は9年連続で過去最高売上を更新しています。また、毎月発表される「CM好感度調査」では、約3年間にわたって1位の座を不動のものとしています。さらに名誉なことに、日経ビジネス誌2021年10月18日号では「プロマーケターが選ぶ 『マーケティングを見習いたい企業』 ランキング」の1位に選出されました。
より柔軟でクリエイティブな組織文化と人材を形成する
ただ、忘れてはいけないのは、「事を為すもの」は、戦略や計画、ましてや制度ではないという当たり前のことです。どんな成長戦略を描いたところで、最終的にそれを遂行するのは、人、すなわち社員です。目指す未来を実現させるには、それを可能とさせる人材が必要です。
かつての日清食品の組織は、極論してしまえば「自社ブランドの即席めんを売る」ために特化していました。無論、それは意味のあることであり、事実、成果もあげてきました。しかし、時代が変わり、多様で複雑なニーズに応えながら、新規事業と既存事業を同時に持続的に成長させるには、従来の延長線上にない、より柔軟でクリエイティブな組織文化と人材が必要です。そのため、組織文化のアップデートと、人材育成のためさまざまな改革も実行しています。
例えば、“DIGITIZE YOUR ARMS”(デジタルを武装化せよ)の社内スローガンのもと、DXを推進しました。関西工場に代表されるIoTを活用したスマートファクトリー、タレントマネジメントの高度化、サプライチェーンの再構築、さまざまな申請とその承認のプロセスのペーパーレス化などが、その事例となります。デジタルにできることは全てデジタルに任せることで、新しいこと面白いことを考える時間を創り出すことができていると思います。加えて、昨年から社内専用のAI、NISSIN AI-chatを開発導入しました。セールス部門ではプレゼンの資料作成やエンタメ化された店頭販促のテーマ決めなどに活用しています。このようにAIの活用によってセールス1人当たりの労働時間は年間で400時間ほど削減されることが見込まれています。
その営業部門は、2021年、従来の、ただ製品を売ってくればいいという組織から、得意先さまのさまざまな課題を自社製品でともに解決していく組織へと、そのミッションを一新させ、名称も営業本部からビジネスソリューション本部に変更しました。このことも、組織文化を変革させた一例と言えるでしょう。
また、ダイバーシティの推進、キャリア採用など、組織としての多様性や柔軟性を高めるような取り組みも進めています。多様な働き方を選べるよう、出社とリモートワークをフレキシブルに運用できるハイブリットワークの実施もその一つです。即席めんを世に生み出したリーディングカンパニーとして培ってきたフードテックやイノベーション、あるいはSNSやデジタルの活用などで、当社は世界レベルで見てもユニークなブランディングを確立しつつあると手応えを感じており、このサクセスストーリーをグローバルに展開することでグループ全体の成長を加速させることが可能だと考えます。実際にシェアNo.1のブラジルでは日清食品のマーケティング手法を活用し、結果を出しています。今後は、このような事例をさらに拡大していきたいと思います。
これからもテクノロジーの発展はますます人間の生活を変えていくでしょう。それとともに社会や価値観も大きく変化していくはずです。ただし一つだけ変わらないことがあります。それは人間には食が絶対に必要だ、という事実です。日清食品グループは、「新たな食の創造」で 世界の課題をスピーディに解決し、人類をもっと健康に、もっとハッピーにしていきます。
VALUE REPORT
2024
WHO日清食品グループとは?[3.66KB]
- グループ理念
- 社会価値創造History
- 日清食品グループの今
- 日清食品グループの6つの資本
- 日清食品グループのコアとなる強み
HOWどのように目指すのか?[9.79MB]
- 価値創造プロセス
- CSOメッセージ
- CFOメッセージ
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成長戦略❶ 既存事業のキャッシュ創出力強化
- 国内即席めん事業
- 国内非即席めん事業
- 海外事業
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成長戦略➋ EARTH FOOD CHALLENGE 2030
- 気候変動問題へのチャレンジ
- 資源の有効活用へのチャレンジ
- 成長戦略❸ 新規事業の推進
- 最適化栄養食のタッチポイント創出・拡大
- 最適化栄養食の新たな価値創造
- CHROインタビュー
- 人的資本の強化
- IRイベントレポート
- コーポレートガバナンス
- 取締役・監査役
データ [1.63MB]
- 財務サマリー
- 非財務サマリー/主な外部評価
- 即席めんの世界市場データ
- 会社情報・株式情報