ファーストエントリーにこだわり
生成AIをいち早く活用
ファーストエントリーにこだわり
生成AIをいち早く活用
日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部デジタル化推進室 室長 2006年入社
山本 達郎
社員の所属は取材当時のものです。

- THEME 01 -

誕生の経緯

入社式で経営トップ自ら「ChatGPT」を活用

日清食品グループでは中長期成長戦略の実現に向けた事業構造改革の一環として、全社活動テーマ「NBX(NISSIN Business Xformation)」を掲げています。このテーマのもと、デジタル技術を活用した「ビジネスモデル自体の変革」「効率化による労働生産性の向上」を追求し、さまざまな取り組みを行っています。このNBXを加速させるため、全社員に対してスローガン「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」が発信されています。これは、「IT部門へ任せきりにするのではなく、社員一人ひとりが自主的に業務を見直し、自らデジタル技術を身につけて活用する組織文化を作ろう。そのために意識を変えていこう」というメッセージです。こうした背景から日清食品グループでは、現場主導でさまざまなデジタルツールを活用した業務改善が進められていますが、飛躍的な生産性向上を実現するツールとして、次に注目したのがChatGPTでした。「NISSIN AI-chat」は日清食品グループの社員のみがアクセスできる、情報漏洩リスクに対処した当グループ専用のChatGPTです。PC版とモバイル版があります。現在、グループ20社で約4600名が利用しておりますが、入力した情報が外部に漏洩する心配もなく、安心して利用できます。その上で、回答の二次利用に関するリスクについて、「チキンラーメン」のキャラクター「ひよこちゃん」を活用して注意喚起をしています。さらに、多くの社員に愛着を持ってもらうため、デザインにも非常にこだわりました。
この「NISSIN AI-chat」を導入するきっかけとなったのは、2023年4月3日の入社式です。安藤宏基CEOが自らChatGPTを用い、「日清食品グループ入社式 ✕ 創業者精神 ✕ プロ経営者 ✕ コアスキル」のキーワードで生成したメッセージを披露しました。テクノロジーを賢く駆使することで短期間に多くの学びを得てほしいと、新入社員を激励したのです。

- THEME 02 -

成功した理由

新しいことに積極的に挑戦できる組織文化と、同じ志を持つ仲間が加速させた
NISSIN AI-chat 導入・活用

経営トップが率先してChatGPTを活用したことから着想を得て、「1日でも早く社内にChatGPTを導入し、その利点や機能を社員が肌で感じられる環境を作る必要がある」と、IT部門ではその日のうちにプロジェクトチームを立ち上げました。そして入社式から約3週間後の4月25日には、「NISSIN AI-chat」を公開しました。未だに外部の多くの企業から「なぜこんなに早く導入できたのか」と聞かれます。
当社が、なぜここまで迅速に「NISSIN AI-chat」を導入できたのか。それは新しいことに積極的に挑戦できる組織文化があるからだと思います。当社には「日清10則」という行動指針があり、その中に「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。」というものがあります。迷ったら自分を信じて突き進め、間違いに気づいたらすぐ引き返せばいいじゃないか、という言葉です。このプロジェクトも、自分たちを信じて新しいことに積極的に挑戦し、それを経営陣や多くの部署が強力に後押ししてくださったおかげで、スピーディに進めることができました。さらに、自ら希望して参画してくれたプロジェクトメンバー全員の高いモチベーションが、プロジェクトを加速させました。「メンバーに恵まれた」と心から思っています。

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困難と、解決への道

利用促進のために
当社独自の方法論を

早々に公開した「NISSIN AI-chat」ですが、社内での利用がなかなか広まりませんでした。便利なのはなんとなく理解されているものの、「どう使い、自分の業務にどう活かせば良いのか」が社員に浸透していなかったのです。生成AIという最先端の技術をいち早く取り入れた分、“業務に活用する方法論がまだ世の中にない”状況でした。「ならば、自分たちが最初に作ろう」――私たちはそう考えたのです。
この取り組みにはIT部門だけでなく、業務部門の協力が必要でした。そこでセールス部門と連携して、全国8拠点からプロジェクトメンバーを選抜し、セールス業務への活用検討をスタートしました。
まずはNISSIN AI-chat を活用する対象業務を選定しました。最初から「NISSIN AI-chatが活用できそうな業務」を探そうとすると、なかなかアイデアが浮かびにくいため、マンダラチャートを活用し、「自分が日々の業務の中で改善したいこと、非効率だと思うこと」をどんどん書き出してもらいました。その結果たくさんのアイデアが集まりました。その中から、売り場企画の案出しや資料作成、市場調査など約30業務でNISSIN AI-chatを活用することにしました。
次に行ったのは、対象業務で使用するプロンプトテンプレート(NISSIN AI-chatへの指示文のひな型)の作成です。ひな型を活用することで、誰でも高いクオリティでNISSIN AI-chatの回答を得ることができると考えました。業務に活用できるまで精度を上げるのは至難の業でしたが、1週間ひたすらプロンプト文を作り、粘り強く検証と改良を繰り返しました。そしてようやく活用できるテンプレートを開発できたのです。その後、他部署でも同様のプロジェクトを実施し、現在100種類以上のプロンプトテンプレートができており、NISSIN AI-chatの画面上で簡単に使用できます。
また生成された回答に対するフィードバックを、GoodボタンとBadボタンで簡単に送信できる機能を作り、その内容をAIで分析することで、日々プロンプトテンプレートやシステムの改良に努めています。
このようにして私たちは、独自の方法論を作りあげていきました。

- THEME 04 -

「NISSIN AI-chat」は、
人類をどうHAPPYにできるか

生成AI活用を積極的に進めて
社会に貢献したい

「NISSIN AI-chat」を効果的に活用するためには、まだまだ改良が必要です。今後、社内の情報を熟知したAIに進化させ、画像生成AIや音声認識AI機能なども追加していく予定です。
それにより、例えば社員が社内のある情報を知りたいときに「NISSIN AI-chat」へ質問すれば、社内のドキュメントや業務システム内の情報を瞬時に参照し、回答を生成することが出来ます。さらに、過去のデータや事例に基づいて、意思決定に役立つ情報を提供することも可能です。また、新製品のパッケージデザインのアイデア出しに画像生成AIを活用することで、斬新なデザインを生み出したり、音声認識AI機能を使って商談の内容をテキスト化し、報告書を自動生成したり……といったことも検討しています。さらに、Microsoft 365アプリ(Excel・Word・Power Point等)に生成AIを搭載した「Copilot for Microsoft 365」を活用することで、あらゆる作業の自動化を実現したいと考えています。このようにAIを社内のさまざまな業務に組み込み、業務プロセスを再設計することで、さらなる効率化と生産性向上が期待できます。これにより、社員の創造的な活動に注力する時間を増やすとともに、新たな食の創造的なアイデアを迅速に生み出すことができれば、今の何倍ものスピードで世界の課題を解決し、人類をもっと健康に、もっとHAPPYにできると考えております。簡単な話ではないですが、だからこそ、やりがいがあり、夢があり大きな可能性を感じております。
こうして当社が生成AIを早くから活用していることは、社外からも注目いただいていますが、セミナーでの講演や情報交換会などをご依頼いただいた際は、包み隠さずお話しています。当社は、生成AIを駆使するファーストエントリー企業になることを目指してきました。私たちの取り組みによってAI活用が広まり、多くの企業の生産性が向上し、新たなアイデアが生まれれば、世の中はもっとHAPPYになると考えています。
私は新卒入社して18年間、自分のやりたいことに手を上げ、さまざまな部署で新しいプロジェクトや組織を立ち上げてきました。まだまだ新しいことに思いきり挑戦できる環境で、毎日の仕事が楽しくて仕方ないです。