日清食品グループは、原材料調達をはじめとする事業活動が、健やかな土壌や豊富な地表水・地下水などの自然の恩恵に大きく依存していることを認識しています。これらは生物多様性によって支えられており、中長期的に事業を存続させるためには、「生物多様性の保全と回復」と「ビジネスの発展」の両立が不可欠です。そこで、当社グループは経営会議による承認のもと「日清食品グループ生物多様性方針」を策定しました。
さらに、森林破壊などによる自然や生物多様性の減少をプラスに回復させる「ネイチャーポジティブ」に向けた活動を推進し、2050年までにCO2の排出量と吸収量を“プラスマイナスゼロ”にする「カーボンニュートラル」の達成を目指しています。「ネイチャーポジティブ」の推進と「カーボンニュートラル」の達成に向けた各施策は、それぞれ相乗効果を生むように設計しています。
日清食品グループが目指す「ネイチャーポジティブ」を実現するためには、生物多様性の保全と回復が必要だと考えています。そこで、当社グループの事業活動が生物多様性に与える影響を把握するため、2022年11月にTNFD*1が発表した「TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワークベータ版v0.3*2」を参考に、LEAPアプローチ*3を用いた自然関連リスク・機会評価をトライアル実施しました。
ENCORE※1によると、天水、かんがい耕作作物、酪農、天然海水漁業などの生産プロセスを含む農林水産業は、自然への依存度が最も大きいセクターとされています。特に、食品企業は自然の資源に依存しているほか、事業活動を通じて生物多様性に大きな影響を与えています。
そこで、当社グループのバリューチェーンのうち、原材料調達における評価から始めることが重要と判断しました。今回のトライアル実施においては、当社グループの主要製品に使用している様々な原材料のうち、森林リスク商品※2に含まれる「パーム油」「木材パルプ」「カカオマス」「大豆」と、海域の原材料の「エビ」「イカ」「すり身魚」の計7品目を対象としました
(図1)。
(図1)
7品目の主要な調達先の「生態系の完全性」「生物多様性の重要性」「水ストレス」について5段階で評価しました。さらに、日清食品グループの調達戦略と整合性を確保するため、各原材料の「戦略的重要性」「代替可能性」「調達難易度」「価格上昇率」も勘案し、主要な調達先の中から優先地域を選定しました。その結果、対象7品目の主要な調達先 (37の国・地域) のうち、以下の4品目 (パーム油、エビ、カカオマス、木材チップ) において優先すべき調達国・地域を特定しました (図2)。
(図2)
Locateで特定した各優先地域での原材料生産プロセスについて、自然への依存・影響関係に関するENCOREのデータと、原産地の地域性や原材料の特性、業界団体の動きなどに関する文献調査の結果を掛け合わせ、自然への依存度と影響度を複合的に評価しました (図3)。また、影響度を評価する際には、「温室効果ガスの排出」「水使用」などの影響要因について、事業活動が与える負の影響のみならず、「負の影響の緩和」や「正の影響の創出」に繋がる取り組みをまでを含めています。
原材料 | 依存 | 影響 |
---|---|---|
パーム油 (インドネシア、マレーシア/全土) |
|
|
木材チップ (日本/北海道) |
|
|
エビ (インド/ケララ州) |
|
|
カカオマス (エクアドル/全土) |
|
|
(図3)
原材料 |
---|
パーム油 (インドネシア、マレーシア/全土) |
依存 |
|
影響 |
|
原材料 |
---|
木材チップ (日本/北海道) |
依存 |
|
影響 |
|
原材料 |
---|
エビ (インド/ケララ州) |
依存 |
|
影響 |
|
原材料 |
---|
カカオマス (エクアドル/全土) |
依存 |
|
影響 |
|
(図3)
Evaluateで確認した自然への依存・影響関係に基づき、当社グループの原材料調達における自然関連リスク・機会を以下の通り特定しました。
自然関連リスクに関しては、主に原材料生産者への影響に起因するものを物理リスク、主にステークホルダーへの影響に起因するものを移行リスクと捉え、特に重要度の高いものを抽出しました
(図4)。
自然関連機会に関しては、Evaluateで整理した「負の影響の緩和」または「正の影響の創出」に繋がる取り組みをもとに、当社グループとして実現可能性のある機会を原材料別に検討しました
(図5)。これらに加えて、複数の原材料に共通する機会として、当社グループの強みであるフードテックを活かした植物性代替食の開発・使用を進めていきます。また、当社グループの製品は老若男女問わず幅広い消費者と接点があることを踏まえ、RSPOをはじめとする認証制度のマークを商品パッケージに表示することで、消費者に対して持続可能な調達や認証制度に関する認知の向上を図り、持続可能な商品の市場形成に貢献していきます。今後、特定した自然関連リスクと機会に優先順位をつけ、取り組みの進捗を管理する指標を設定していく予定です。
原材料 | 物理リスク | 移行リスク | |||
---|---|---|---|---|---|
慢性リスク | 急性リスク | 政策・法規制リスク | 評判リスク | 市場リスク | |
パーム油 (インドネシア、マレーシア/全土) | 花粉媒介昆虫や、害虫の捕食動物の生息数減少、化学肥料使用による土壌汚染、POME流出による水質汚染などの生態系サービスの劣化に生産者が適応できず、パーム油の供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | 農地開発に伴う水害激甚化、不適切な焼畑による農園の消失や生態系の劣化によりパーム農園における生産活動が中断された場合、価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。 | 農地開発や化学肥料使用への規制強化、認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、パーム油の供給量が制限されることで、価格が上昇する。 | - | 化石燃料代替品としてのパーム油の需要増加により供給がひっ迫し、価格が高騰する。 |
木材チップ (日本/北海道) | 土壌汚染や水資源の汚染・枯渇などの生態系サービスの劣化により木材の供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | - | 土地利用や伐採の制限に関する規制強化、認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、木材チップの供給量が制限されることで、価格が上昇する。 | - | 再生可能資源である木材の需要増加により供給がひっ迫し、価格が高騰する。 |
エビ (インド/ケララ州) | 海水温度の上昇に起因する海藻の育成不良・海水の酸性化や沿岸の水質汚染により、エビの生息地が劣化し供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | 原油の流出や赤潮の発生によりエビの供給量が減少した場合、価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。水質や生物多様性等の生息地の環境変化によりエビに対する病気が蔓延した場合、供給量が減少する。 | 混獲防止装置の設置義務化に関する規制や認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生することで価格が上昇する。禁漁期間が延長されエビの供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | - | - |
カカオマス (エクアドル/全土) | 花粉媒介昆虫の減少や水資源の汚染・枯渇、化学肥料使用による土壌汚染などの生態系サービスの劣化に生産者が適応できず、カカオの供給量が減少した場合、カカオマスの価格が上昇する。 花粉媒介昆虫の減少に伴う人工授粉や肥料の追加により、カカオマスの生産コストが上昇する。 | 災害や病虫害などの影響によりカカオ農園における生産活動が中断された場合、カカオマスの価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。 | 農地開発や化学肥料使用への規制強化、認証取得の義務化、取水量の制限、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、カカオマスの供給量が制限されることで、価格が上昇する。 | - | - |
全般 | - | - | サプライヤー管理、モニタリング体制などの強化により、ガバナンスコストが増加する。 | サプライヤーにおける自然資本の毀損に対する糾弾が日清まで遡及し、ブランドイメージが低下する。 | 消費者の選好が、より環境負荷の低い原料を使用する製品にシフトする。 |
(図4)
原材料 | 機会 | |
---|---|---|
パーム油 (インドネシア、マレーシア/全土) | ●天然資源の持続可能な利用 |
|
●生態系の保護、回復、再生 |
| |
木材チップ (日本/北海道) | ●天然資源の持続可能な利用 |
|
●資源効率 |
| |
エビ (インド/ケララ州) | ●天然資源の持続可能な利用 |
|
●生態系の保護、回復、再生 |
| |
●資源効率 |
| |
カカオマス (エクアドル/全土) | ●天然資源の持続可能な利用 |
|
(図5)
原材料 | |||
---|---|---|---|
パーム油 (インドネシア、マレーシア/全土) | |||
物理リスク | |||
慢性リスク | 急性リスク | ||
花粉媒介昆虫や、害虫の捕食動物の生息数減少、化学肥料使用による土壌汚染、POME流出による水質汚染などの生態系サービスの劣化に生産者が適応できず、パーム油の供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | 農地開発に伴う水害激甚化、不適切な焼畑による農園の消失や生態系の劣化によりパーム農園における生産活動が中断された場合、価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。 | ||
移行リスク | |||
政策・法規制リスク | 評判リスク | 市場リスク | |
農地開発や化学肥料使用への規制強化、認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、パーム油の供給量が制限されることで、価格が上昇する。 | - | 化石燃料代替品としてのパーム油の需要増加により供給がひっ迫し、価格が高騰する。 |
原材料 | |||
---|---|---|---|
木材チップ (日本/北海道) | |||
物理リスク | |||
慢性リスク | 急性リスク | ||
土壌汚染や水資源の汚染・枯渇などの生態系サービスの劣化により木材の供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | - | ||
移行リスク | |||
政策・法規制リスク | 評判リスク | 市場リスク | |
土地利用や伐採の制限に関する規制強化、認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、木材チップの供給量が制限されることで、価格が上昇する。 | - | 再生可能資源である木材の需要増加により供給がひっ迫し、価格が高騰する。 |
原材料 | |||
---|---|---|---|
エビ (インド/ケララ州) | |||
物理リスク | |||
慢性リスク | 急性リスク | ||
海水温度の上昇に起因する海藻の育成不良・海水の酸性化や沿岸の水質汚染により、エビの生息地が劣化し供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | 原油の流出や赤潮の発生によりエビの供給量が減少した場合、価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。水質や生物多様性等の生息地の環境変化によりエビに対する病気が蔓延した場合、供給量が減少する。 | ||
移行リスク | |||
政策・法規制リスク | 評判リスク | 市場リスク | |
混獲防止装置の設置義務化に関する規制や認証取得の義務化、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生することで価格が上昇する。禁漁期間が延長されエビの供給量が減少した場合、価格が上昇する。 | - | - |
原材料 | |||
---|---|---|---|
カカオマス (エクアドル/全土) | |||
物理リスク | |||
慢性リスク | 急性リスク | ||
花粉媒介昆虫の減少や水資源の汚染・枯渇、化学肥料使用による土壌汚染などの生態系サービスの劣化に生産者が適応できず、カカオの供給量が減少した場合、カカオマスの価格が上昇する。 花粉媒介昆虫の減少に伴う人工授粉や肥料の追加により、カカオマスの生産コストが上昇する。 | 災害や病虫害などの影響によりカカオ農園における生産活動が中断された場合、カカオマスの価格上昇や調達先を変更する必要が生じる。 | ||
移行リスク | |||
政策・法規制リスク | 評判リスク | 市場リスク | |
農地開発や化学肥料使用への規制強化、認証取得の義務化、取水量の制限、炭素税の導入などが進んだ場合、対策コストが発生し、カカオマスの供給量が制限されることで、価格が上昇する。 | - | - |
原材料 | |||
---|---|---|---|
全般 | |||
物理リスク | |||
慢性リスク | 急性リスク | ||
- | - | ||
移行リスク | |||
政策・法規制リスク | 評判リスク | 市場リスク | |
サプライヤー管理、モニタリング体制などの強化により、ガバナンスコストが増加する。 | サプライヤーにおける自然資本の毀損に対する糾弾が日清まで遡及し、ブランドイメージが低下する。 | 消費者の選好が、より環境負荷の低い原料を使用する製品にシフトする。 |
(図4)
原材料 | |
---|---|
パーム油 (インドネシア、マレーシア/全土) | |
機会 | |
|
|
|
|
原材料 | |
---|---|
木材チップ (日本/北海道) | |
機会 | |
|
|
|
|
原材料 | |
---|---|
エビ (インド/ケララ州) | |
機会 | |
|
|
|
|
|
|
原材料 | |
---|---|
カカオマス (エクアドル/全土) | |
機会 | |
|
|
(図5)
本トライアルで特定した自然関連リスク・機会への対応策は、環境戦略「EARTH
FOOD CHALLENGE
2030」や「カーボンニュートラル」「ネイチャーポジティブ」の実現に向けたさまざまな戦略と整合性を取りながら、日清食品ホールディングスのサステナビリティ委員会が主管となって今後も検討していきます。
また、自然関連リスク・機会の評価は、当社グループの全体的なリスクマネジメント・プロセスの一環として今後も継続的に実施する予定です。次回以降は、対象とする調達地域をより細かい単位で把握することや、それぞれの原材料に合わせた指標を用いた定量評価を行うことを目指しています。
日清食品グループは、生物多様性に関連する目標として「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を、2030年度までにグループ全体で100%にする」ことを掲げています。また、「森林破壊ゼロ」の方針を遵守するため、搾油工場 (ミル) のトレーサビリティ(履歴の追跡)確保や衛星モニタリングツールを活用した森林破壊リスクの分析などを行っています。分析の結果、森林破壊リスクが高いと判断されたミルやその周辺のアブラヤシ農園に対しては、「経済人コー円卓会議日本委員会※1」および「SPKS※2」とともに、アンケートやダイアログを通じた個別調査を順次行う予定です。
適切に管理されていない森林は、CO2の吸収力低下や土砂災害、風雪災害の要因になるほか、生態系にも影響を及ぼします。東京都八王子市にある当社グループの技術・開発・研究の拠点「the
WAVE」では、2016年から年に1回、NPO法人「緑サポート八王子」と東京都環境局職員による協力のもと、近隣の緑地保全地域で社員とその家族による森林整備活動を実施しています。
この活動では、苗木の成長を促進させるための下草刈りや森林内に日光を入れるための間伐作業などのほか、子ども向けの工作体験、シイタケの植菌といった、参加者に森の恵みを体感してもらう時間も設けています。これまでに社員とその家族の合計88名が参加しました。
長野県小諸市では、115種のチョウ類が確認されており※1、浅間高原には長野県の天然記念物に指定されているミヤマモンキチョウ、ミヤマシロチョウなど、希少な種類が生息、生育しています。しかしながら、長野県内には絶滅の危機にある昆虫が多く、保全に向けた取り組みが求められています。
当社グループでは、長野県小諸市にある「安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センター
(略称:安藤百福センター)」の敷地内にビオトープ※2を造成することで、この地域において絶滅の危機にある希少な昆虫の保全につなげています。
また、生物多様性への関心を高めるため、ビオトープにやってきた昆虫の写真を一般の方から募集し、それをまとめた昆虫100種のデジタル図鑑を制作しました。こうした取り組みが評価され、国連生物多様性の10年日本委員会
(UNDB-J) が主催する「生物多様性アクション大賞2018」を受賞したほか、公益財団法人
日本自然保護協会が主催する「日本自然保護大賞」に2年連続で入選しました
(2018年、2019年)。
実施日 | 参加者数 | 活動内容 | |
---|---|---|---|
2017 | 11月10日~12日 | グループ社員23名、地元ボランティア6名 |
|
2018 | 5月11日~12日 | グループ社員15名、一般参加者計339名 |
|
11月3日 | グループ社員14名 |
| |
2019 | 3月 |
| |
5月〜7月 |
|